新作について
- shigeruhirata1978
- 2022年4月3日
- 読了時間: 3分
伊勢現代美術館で開催されております、「三重の立体造形作家たち展」にて新作を展示しております。この美術館は多方でご活躍の彫刻家のかたの作品を多数所蔵しておられ見ごたえのある美術館です。ロケーションも恵まれおり全身で彫刻を鑑賞できます。

【作品名】
おぼせが吹く
【制作年】
2022年
【素材】
石灰石
サイズ H23×W205×D51(cm)
【制作方法、制作時間】
石彫、2021年11月から2022年2月
【コンセプト等】
今作によせて
削ってはとまって考えて、また削って
なかなか形が定まらない
風がふいて、雨がふって、雪がふって
石の幾重もの層が、素材の成り立ちまでの想像がつかないほどの時を語りかける
彫刻することもまた時間を必要とする
山の稜線や水のわだち、とけた雪のあと、そういうものを気にしてみるようになった
最初のイメージに反するように目の前の形が変化していった
ひるがえしては違う層へ、ひるがえしてはもっと深い層へ
その渓谷に春の風が吹けばと願う
作品をご覧のお客様へ
この作品の素材はポルトガルからきたモカクリームという石です。なんともおいしそうな名前です。このきれいに入った層が特徴的だと思いました。この石もすごく時間をかけて石になったのでしょう。荒く削っているときはなかなか気づきませんが、磨いたりよく観察してみるとやわらかい色をした石肌に気づきます。
この石にどのような形を彫刻するのか。いつも対面するこの問題が今回も大切でありまた大変なことでもありました。石を見つめては削っていくうちに、石がいつもと違う彫刻へと手を引いてくれました。
素材を通して何かを表わしたいと考える一方で、自分自身も素材を通じて世界を感じとり表わそうとしていたのでしょう。
作品の表面はより素材の層がみえるように磨いてあります。この石は光があたるととてもきれいな表情をみせてくれます。春麗の折に、このやわらかい色味とともに今作を楽しんでいただければ幸いです。

【作品名】
跡 ―あと―
【制作年】
2020年
【素材】
大理石 サイズ H5×W80×D80(cm)
【制作方法、制作時間】
石彫、2020年9月から2020年12月
【コンセプト等】
今作によせて
対象の記憶をたどる
表面にある皺(しわ)や跡を彫刻したい
白い大理石を目の前にすると石の模様に惹かれながらも触覚的な感覚で素材を掴みたくなる
決まった形を持たない表面を追う、
削られた形態をさらに追う、
現れた形に感情や記憶を追う、
形跡と痕跡の間を縫うようにして作品があらわれてくる
記録と記憶はちがう
そこにみえない存在への問い、形態からの記憶への問いかけ
作品が媒体となればと願う、鑑賞する方の記憶に触れながらも
作品をご覧のお客様へ
展示の特性もあり触っていただけないのが残念ですが、これはイタリアの大理石でカラーラビアンコという種類の石です。あのミケランジェロも使用した石種だとか。機械工具で削りながらも、粘りけのある石だなと思いました。表面は形跡をなぞるようにして磨きました。持ち上げたら割れてしまいそうな薄い作品です。
シーツや衣服のしわのように見える作品ですが、何気ないこのような形や表情から思い出すこともあるのではないでしょうか。作者の記憶、見る人の記憶はそれぞれ違うはずです。ですが、もしかして共通しているところもあるかもしれません。この彫刻は記憶装置のような要素もあるのかもしれません。でも、記録ではありません。この作品に足をとめ、ゆっくりと時間を過ごしていただけましたら幸いです。




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